社員が誇れなければ応援されない 石田正也さん アルプスピアホーム(松本市)

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5月の定時株主総会で代表取締役に就任。橋本公秀前代表から、アルプスピアホームの経営を託された。一族承継はしないという理念にもとづき「10年後、次のリーダーにバトンを渡す」まで、全力で会社のかじを取る。市場が縮む時代の成長のカギと、展望を聞いた。(竹内美樹)

 


 

1999年の設立以降、順調に受注を伸ばし、前期の実績は実に190棟。20年余りで県内トップビルダーに成長した。が、その道のりは平坦ではなかったという。

 

「会社は一度崩壊しかけた」。設立から10年、年間棟数がもう少しで100棟に届くというときだ。壁を破れないまま3年足踏みした。「明確な基準がないまま拠点展開したツケ。店長はじめ社員のやり方が全員バラバラだった。集客は好調でも、あとの仕事がまわらない」

 

属人的なマンパワー頼みだから、深夜の残業や休日なしはあたり前。会社への不満や歪みが各所で噴出した。それでも売上目標は年々増加、半面、新卒を採用し育てる余裕はない。中途採用で人を補てんすると、一層『俺流』に拍車がかかった。組織は機能せず、最後は社員の家族からも苦情が来たという。

 

「マーケティングの問題ではなく、管理体制の問題。会社といいながら組織の体をなしていなかった」と振り返る。専務に就任したのはそのとき。2010年、現会長の橋本公秀氏が社長に就くと同時に経営に参画、ともに社内改革を進めた。

 

属人化から標準化へ

 

最初に手をつけたのはマニュアルとフローの作成だ。さまざまな業務の手順・手法を明確化。営業であればまずショールームの案内、どの順序で案内し、何を説明するかまで明文化した。続く建物案内、資金計画、土地探し、プランも同様。かつ、場面ごとに要求されるサービス水準を顧客目線で設定した。

 

「営業の場面ごと、お客様にどこまで理解してもらえたら合格かを言葉で明示。そこに至るまでにどれだけ時間をかけるのかも示した。一組のお客様に6カ月かける人もいれば1カ月の人もいる。かといって時間をかければ満足度が高いとは限らない」

 

マニュアルに従うことで誰がやっても同じ順序と時間で業務が進み、一定のサービス品質を確保、手戻りのロスも減る。「無駄の削減はお客様のためでもある。大切な休日を有効に使ってもらおうという考え方です」

 

評価のものさし明示

 

社員がバラバラな業務の進め方をしている環境下では、人材の教育は不可能だ。マニュアルの作成と浸透により、5年前から新卒採用を開始した。1期生は7人中4人が辞めてしまったが、2期生以降の離職はない。今期も4人を採用し「新卒を戦力化できる体制が整ってきた」とする。

 

合わせて取り組んだのが、人事評価と給料の連動だ。

 

「以前の評価基準は、いわば役員の裁量」。明確な基準がないから社員は何を評価されているのかわからず、不満の原因となっていた。そのため昇級の条件を部門別に明文化。給与テーブルと連動させ、公開した。

 

インセンティブの付与もさまざまな指標で試したが、個人成績偏重を避けるため廃止。現在は営業利益の15%を決算賞与で分配するやり方に変えている。

 

「重要なのは公平な基準と透明な運用。とくに若い人はそこに敏感」。がんばっただけ評価され、仮に評価が低くても評価基準が公平、透明であればスタッフは納得できる──そうしたしくみが育成には欠かせないと話す。

 

「商品や技術、制度を最終的に生かすのは人。納得せずに仕事をしても人は能力を発揮できず、成長もできません」

 

社員が経営を体験

 

中期経営計画にもとづく年間目標、達成に向けた部門目標、個人目標――すべてオープンにしてコミットし、評価指標として運用することで社員の納得を引き出し、自主性を育てる。定量目標だけでなく定性目標にも重きを置き『何をがんばれば評価されるのか』を明確化。「評価のものさしが社員に見えるというのは、言葉を換えれば全員が経営を疑似体験できるということ」

 

たとえば各店舗の必達目標棟数は基本的に営業社員の現有戦力で決めるが、店長はスタッフと対話したうえで「チャレンジ棟数」をあげてくる。『今期はこれだけ挑戦する』という自主的な意思表示だ。

 

「ある店長が先日『このままではがんばってくれたスタッフに十分な決算賞与が出せない』といってきた。まるで社長のような意識です。それだけ自分たちの成果を、営業利益までよく見て、一喜一憂している」

 

こうした意識は、次の経営リーダーを育てることにつながっていく。もともと一族承継をしないと決めて創業した会社。石田代表も10年で次のリーダーにバトンを引き継ぐつもりだ。

 

「企業の成長のカギはスタッフの成長にある」という。これから重要なのは社員満足やパートナー(協力会社・職人)満足。「自分の会社、仕事を自分自身や家族が誇れるかどうか。誇りを生むのは、外からの評価です。どこから見られても『うちは誇れる』と社員や家族、パートナーがいえるかどうかが勝負。胸を張って働いてこそ応援され、口コミや紹介も生まれる」

■アルプスピアホーム[本社:松本市]

 

1999年設立。「高品質×低価格」を打ち出した商品と性能・価格明示の売り方が、安心感・値ごろ感を求める子育て世代の客層に訴求。好調に受注を伸ばし、わずか20年で長野県トップの地場ビルダーに成長した。年間受注棟数約190棟。拠点は松本、諏訪、長野、上田のほか安曇野、長野で総合住宅展示場に出店。パート・アルバイト含め社員100人。